RIビーム検出器の開発

RIビームの生成

目的とするRIは安定核の入射核破砕反応やウランの核分裂反応を用いて生成します。
加速器を用いて光速の70%までに加速された安定核や長寿命のウランなどの1次ビームを、ベリリウムなどの標的にぶつけて1次ビームから陽子や中性子を剥ぎ取ることで様々な質量数(A)と原子番号(Z)を持ったRIを生成します。また二次的に生成されたRI(2次ビーム)も1次ビームとほぼ同じ速度を持っています。
この反応では確率的に様々なRIが生成されます。効率の良い実験をするためには、不要な核種を分離し、2次ビームに含まれる目的の核種の比率を最大化する必要があります。

2次ビームの分離

この最初の分離には、2台の双極子磁石とスリット、そしてくさび型減衰板が一般的に用いられます。図1に2次ビームの分離の概要を示します。
まず最初の双極子磁石で目的核の磁気剛性率(Bρ∝A/Z)を選びます。しかし、目的核のA/Zに近く原子番号が違う核種はスリットを通過してしまいます。次に、くさび形減衰板を通過させ、原子番号の違いによるエネルギー損失の違いを利用して2台目の双極子磁石でさらなる分離を行います。
この方法により、原理的には目的の核種のみを選別することは可能ですが、実際に目的の核種を選別できているかを確認するためには粒子識別を行う必要があります。また、2次ビ ームの分離は質量数Aの小さな軽い領域では容易ですが、重い領域になるにつれて隣り合う核種のA/Zが近くなるため分離が困難になります。そのため重い領域では目的の核種のみを選別しようとするとスリットをより厳しく絞る必要があり、それによ ってビームの収量を大きく損なってしまうことが起こり得えます。実際の測定では、スリット幅は収量を損なわない程度に狭め、混入する他の核種と目的の核種とを粒子識別によって選別します。

図1 2次ビームの分離を示した模式図。

粒子識別

粒子識別とは各検出器の波高や時間などの情報を用いて、粒子一つ一つの質量電荷比A/Z(または質量数A)と原子番号Zを識別することです。理研RIBFの実験ではBρ-TOF-ΔE法が用いられています。この方法では、磁気剛性率Bρの測定と、飛行時間TOF(Time-Of-Flight)の測定、そしてエネルギー損失ΔEの測定をそれぞれ行ないます。磁気剛性率Bρ、エネルギー損失ΔEの以下の関係式からA/ZとZを決定することができます。粒子の速度β(=v/c)は飛行時間の測定から決定します。

位置検出器

磁気剛性率の測定では、双極子磁石と位置検出器を用います。
位置検出器は、粒子の運動量に応じて到達する位置が異なる焦点面(Dispersive focal plane)に置き、測定した位置から磁気剛性率を決定します。
位置検出器としては、PPAC(Parallel Plate Avalanche Counter)がよく用いられています。PPACには数10Torrのガスが充填されており、粒子が通過した際に生成される電子-イオン対を電極間の電場で加速し、電子雪崩により電荷を増幅して信号を得ます。信号の読み出し線は、Delay Line型とCharge Division 型があり、左右(上下)の電極からの信号の時間差または電荷比から位置を測定します。少量のガスと、ガスを閉じ込めるマイラー膜、電極金属が蒸着されたマイラー膜から構成された物質量の少ない検出器になっており、RIBFでは粒子のトラッキングにもよく用いられています。欠点は、電極の作成が難しいこと、膜が薄く扱いがデリケートなのでガスハンドリングが煩雑なことと、軽い領域では検出効率が良くないことなどが挙げられます。

飛行時間検出器

飛行時間の測定には、スタート時間を測定する検出器とストップ時間を測定する検出器が必要です。一般的にはプラスチックシンチレータと光電子増倍管を組み合わせたプラスチックシンチレーション検出器が用いられます(図2)。粒子が通過する際に放出されるシンチレーション光を、光電子増倍管の光電面で光電子に変換し、電子を増幅して信号を得ます。この検出器は応答速度が早い(数ns)ため、時間分解能が求められるTOF測定に適しています。作成が簡単で安価であることも利点です。ただし、時間分解能を上げるには、シンチレータを厚くして光量を稼ぐ必要があります。時間分解能と物質量を天秤にかけなければならないことが欠点だと言えます。

図2 左右両読み型プラスチックシンチレーション検出器。シンチレーション光の収集効率を上げるアルミホイルと、外からの光の侵入を防ぐための遮光テープが貼ってあります。

エネルギー損失検出器

エネルギー損失の測定には電離箱がよく用いられます(図3)。
電離箱は大気圧のガスが充填されており、中には複数枚の電極が入っています。粒子が電離箱を通過するとガスが電離され、電子-イオン対が生成されます。発生した電子を電極間の電場により電極に誘導して信号を得ます。電子増幅は行わなない電離箱領域で動作するため、信号の大きさは収集した電荷に応じるのでエネルギーの測定が可能となります。粒子のエネルギー損失は原子番号の2乗に比例するので、電荷量の違いから原子番号を選別します。半導体検出器に匹敵するエネルギー分解能を持ち、高計数率でも使用できます。欠点としては、物質量が多いこと、検出器からの信号は非常に微弱なためノイズに弱いこと、信号の時定数が長いのでパイルアップを起こしやすいこと等が挙げられます。

図3 電離箱の外観(左)と中の電極(右)。電極にはアルミニウムを蒸着した薄いマイラー膜を用いています。

全運動エネルギー検出器

全運動エネルギー検出器にはNaI(Tl)シンチレーション検出器が用いられます(図4)。
プラスチックシンチレーション検出器と同様の動作原理になっています。
この検出器ではNaI(Tl)結晶中に粒子を止め、発生した光量から全運動エネルギーを測定します。TOF測定が困難な短いビームラインの場合は、NaI(Tl)シンチレーション検出器を用いて質量数Aを同定します。NaI(Tl)シンチレータは波長特性が光電子増倍管と相性が良く、時間応答も良好です。比較的軽い領域でのエネルギー分解能は十分ですが、重い領域になるにつれ隣り合う同位体との分離が困難になります。

図4 NaI(Tl)シンチレーション検出器。NaIは潮解性があるため、空気に触れないように金属の密閉容器に入れて用います。

RIビーム検出器への要請

他にも様々な検出器が挙げられますが、全てのRIビーム検出器に求められる要請として以下の項目が挙げられます。

・ 時間分解能、エネルギー分解能が高い
・100%の検出効率
・ 非常に高い計数率(~1MHz)でも性能を保持する
・ 物質量は可能な限り薄い

現在私たちが測定実験に使用している検出器は上記の要請を全て満たしているわけではありません。より良い実験をするためには、より良い検出器が必要です。RIビームを用いた研究の発展のために、検出器開発は欠かせません。私たちは、質量測定実験や断面積測定実験などに用いる検出器の開発・改良に取り組んでいます。