不安定核の核構造の研究

不安定核

自然界に安定して存在する原子核を安定核と呼び、その数は300種類程です。一方、自然界に安定に存在できず、ある寿命を持って安定核へと崩壊する原子核を不安定核と呼びます。理論的に、不安定核は約6000種類存在すると予想されていますが、そのうちこれまでその存在が確認されたものは約3000種類です。存在が確認された不安定核でもその性質は実験的にほとんどわかっていません。図1の核図表では、1マスが1種類の原子核に対応しています。原子核のほとんどが不安定核であることがわかります。我々はその構造がほとんどわかっていない不安定核の核構造を実験的に解明したいと考えています。

図1 核図表。理研仁科加速器センターWebページより引用。

不安定核実験

ラザフォードの散乱実験に代表されるように、原子核の発見以降、原子核研究の中心は安定核でした。不安定核の研究があまり進まなかったのは、不安定核が自然界に存在せず、その生成が難しかったためです。ところが、1980年代に開発された不安定核ビーム(RIビーム)により、不安定核の研究は大いに発展しました。RIビームの生成には、加速器やRIビーム分離器などの大型実験装置を使用します。図2は実験施設の一例として、理化学研究所仁科加速器センターの超伝導リングサイクロトロン(SRC)と超電導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)の写真です。我々は主にこのような大型加速器施設で実験を行っています。

図2 RIBFの超伝導リングサイクロトロンSRC(左)と超伝導RIビーム生成分離装置BigRIPS(右)。理研仁科加速器センターのWebページより引用。

原子核半径

我々はRIビームを利用して不安定核の核半径の系統的な測定を行っています。原子核半径は、質量、寿命などとともに原子核の基本的な性質の一つです。安定核ではラザフォードの散乱実験以来100年以上に渡って詳細に研究されてきました。原子核の教科書を見ると以下のように書かれています。

・ 原子核半径は質量数の1/3乗に比例する
・ 原子核内の中性子の分布と陽子の分布はほぼ等しい
・ 原子核の表面は’ぼやけ’ている

では、不安定核ではどうなっているのでしょうか?
これまでの研究では、上に書いた教科書に載っている「常識」は不安定核 にはあてはまらないことがわかってきました。同じ質量であっても、中性子数や陽子数が大きく異なる不安定核では安定核より核半径は大きくなります。中性子数や陽子数が極端に大きい場合、原子核の表面に現れる中性子分布あるいは陽子分布のみの層(スキン構造)があることもわかってきました。また、不安定核では、「ぼやけ」の分布は単純ではなく、ドリップ線に近い不安定核では、1つあるいは2つの核子がゆるく束縛され空間的に広く分布する現象(ハロー構造)が出現する場合があります。下の図は、軽い原子核の半径(Radius)*を質量数(Mass number)でプロットしたものです。安定核の半径は質量数の1/3乗に比例していますが、11Li(陽子数3, 中性子数8)や14Be(陽子数4, 中性子数10)の中性子過剰核では大きな半径を持つことがわかります。

図3 核半径(Interaction radius)の質量数依存性。引用元データ:I. Tanihata et al., PRL55, 2676 (1985). I. Tanihata et al., PLB 88, 592 (1988).

 

 我々の系統的な測定はまだ軽い領域のほんの一部の不安定核に限られています。今後更に重い領域の測定が進めば、安定核の更なる「常識」を打ち破る新たな「 発見」があると期待できます